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宗教哲学会奨励賞について

  この度、宗教哲学の領域における若手研究者の優れた学術業績を顕彰する「宗教哲学会奨励賞」を設置することとなりました。
  過去5年間の『宗教哲学研究』に掲載された、受賞年度の年度末に45歳以下の方の論文が選考の対象となります。
  宗教哲学会奨励賞の詳細は「宗教哲学会奨励賞内規」をご参照下さい。





第4回宗教哲学会奨励賞 
 
長坂真澄
「レヴィナスにおける主体の脱領域化―カントを背景に」
(『宗教哲学研究』No.29、70-83頁、2012年3月)


選考結果報告

  本論文は、理性的努力と無条件の恩寵への信仰との両立不可能性のパラドックスをめぐる問題を、「根源悪」に対するカントとレヴィナスの捉え方の相違に焦点をあてながら考察した、真摯な取り組みである。

  カントは、理性的な内的努力では凌駕しがたい悪の超越性と、理性的努力によって制御可能な悪の内在性との両立不可能性を調停するために、理性を理論理性と実践理性とに境界設定することで解決させる。つまり理論理性では調停不可能だとしても、実践理性では調停が可能となるのである。

  論者は、啓示宗教を形作る広域の円と、理性宗教を形作る狭域の円というメタファーを用い、中心を共有する二つの同心円として説明し、カントによる信と知のアンティノミー解決の鍵が、この二領域の境界線上に媒介として位置する「キリストの形象」のうちにある、と指摘する。つまり悪は狭域を構成する理論理性においては超越的だが、広域を構成する実践理性の内部では内在的であるとし、この二つの領域の境界線上に位置する「キリストの形象」こそが、信と知の調停地点とされる、と論者は見る。

  しかしレヴィナスからすれば、カントにおける理性の「境界設定」は、批判する有効なる領域をなお前提していて不徹底である。知の自己批判は無能力であることを自覚し、「恥」の経験となるのであり、それは「主体の脱領域化」と呼ばれる。そしてレヴィナスは、他者たちの受苦を自ら引き受ける「メシアとしての私」の概念を導出する。 

  しかし論者は、カントの謂う実践理性を、理論理性の運動の脱領域化をなす運動として捉え直し、カントの悪のパラドックスの解決を解決と見なさず、内在性と超越性の二面性を持ちながら、その超越性を内在性に転じ、受苦を自らに引き受けるメシアとしての命令が必要となる、と締めくくる。

  このように本論文は、テクストの単なる祖述にとどまることなく、優れた読解力を駆使しつつ、論者独自の強靭な思索を展開させており、宗教哲学のあるべき一つの形を提示したものと評価できる。

  以上により、選考委員会は、長坂論文を2016年度宗教哲学会奨励賞にふさわしいものと判断する。長坂氏の研究の今後の進展が期待される。



 2017年3月25日

宗教哲学会奨励賞選考委員会 委員長 井上克人





第3回宗教哲学会奨励賞 
 
後藤正英
「世俗と宗教の翻訳可能性」
(『宗教哲学研究』No.32、42-54頁、2015年3月)


選考結果報告

  後藤正英氏の上記論文は、1990年代以降、宗教論を新たな哲学的な問いとして展開しつつあるハーバーマスを中心に、「宗教」と「哲学」との緊張を内包した関係性を現代の思想状況において描き出した洞察あふれる論考である。宗教を哲学的に論究する可能性について、現代に生きるわれわれが共有する問いとして、広範な視点から柔軟かつ適格な考察が行われている。その点で、本論文は宗教哲学のあるべき一つの形を提示したものと評価できる。また、考察の方法や手順は説得的で、叙述も繊細にして正確であり、豊かな展望が示されている。以上により、選考委員会は、後藤論文を2015年度宗教哲学奨励賞にふさわしいものと判断する。

  ポスト世俗化の時代という現代理解のもと、ハーバーマスは、これまで啓蒙的理性によっていわば解決済みのものと見なされてきた宗教を、哲学によっては代替できない固有性を有するものとして積極的に論じる試みを進めている。論者は、ハーバーマスが提出する「翻訳」というキーワードに注目し、ハーバーマスの立論を、サンデル、ラッツィンガー、テイラーらとの間で行われた対論を検討することによって、分析を進める。翻訳とは「世俗的理性による宗教的伝統の解釈」を意味しており、世俗的理性と宗教的伝統が相互に学び合う学習過程の中に位置する。ハーバーマスは、宗教的事柄に対する不可知論に立ちつつも、宗教的言説のために公共圏における場を空けておく仕事を哲学の課題と認識しており、たとえば、聖書的な「神の似姿」に由来する人権概念を、哲学が翻訳することで宗教共同体を超えた公的な価値へと広げた成功例として論じる。この洞察は、カント哲学の伝統に依拠した、ポスト形而上学時代の哲学的宗教論にほかならない。論者は、この翻訳問題の考察を通して、現代の宗教哲学が取り組むべき難題、つまり、「ある思想が、どこまで、そしてどのように宗教的源泉に関係しているか、という問題」を明確に取り出した。

  もちろん、この宗教哲学の難題は、さらなる思索を要求とするものであり、本論文はその一端を論じたに過ぎない。しかし、論者は、カント、ハーマン、メンデルスゾーンの啓蒙思想期の議論に遡ることによって、さらなる思索の道を具体的に描いている。後藤氏の研究の今後の進展が期待される。


 2016年3月26日

宗教哲学会奨励賞選考委員会 委員長 芦名定道





第2回宗教哲学会奨励賞 
 
田鍋良臣
「神話・自然・詩作 ―ハイデッガーの
始源の道とヘルダーリン」
(『宗教哲学研究』No.30、95-109頁、2013年3月)


選考結果報告

   田鍋良臣氏の上記論文は、ハイデッガー後期思想をヘルダーリン読解を通しての「始源の道」ととらえることによって、前期の『存在と時間』期の後半から後期の「四方界」まで通底するいわゆるハイデッガー的なるもの(始源の思索・詩作)の内実を「神話」の視点から明らかにしようと企図としたものであるが、一般に難解といわれるハイデッガー思想の根本動向を「始源の道」の一点に集中展開した論述のほころびの無い手堅さが、本論文の目論見を成功に導いているといえる。またハイデッガーの「始源をめぐる思索の連続性」とともに「四方界へと至る道程の一端」に光を当てたいという本論文の独自の主張は、ハイデッガー哲学にたいする深い理解と射程の広い思索力を示しており、論述内容の密度と論文の完成度の高さから見て著者の力量を端的にうかがい知ることができる好論文である。よって選考委員会は同論文を2014年度宗教哲学会奨励賞にふさわしいものと判断する。

  「四方界」の思想は、「大地と天空、死すべきものたちと神的なものたち」の四者の結集するところに「存在の現出」をみるハイデッガーの思索・詩作の後期の結実であり、ヘルダーリン読解を通じて獲得された神話的な世界観であることはよく知られているが、著者はそこに「神話問題」を読み取る。神話は始源の根源体験をふくむゆえに哲学自身の根源でもあって、思索の本質は「哲学自身の由来した神話という根源との絶えざる対決」にほかならず、それが著者のいう「神話問題」である。神話が問題となる前提条件は「自然の隠れ」という根本経験とヘルダーリンの詩作の二つであるが、最初の始源から別の始源に通じる「始源の道」を歩む際の不可欠な要件がヘルダーリン読解であるとして、詩作の本質とその根本気分として、「存在の建立」と「聖なる悲しみ」が思索され、「ヘルダーリンの歌う将来のドイツの神話もまた、四方界を準備しつつ、西洋の「別の歴史の別の始源」を基づける」と結ばれる。こうした著者の見解は、ハイデッガー研究を超えて広く宗教哲学的思索を刺激するものとして本学会の発展に資するものであり、田鍋良臣氏の研究の今後の進展が期待される。

 2015年3月28日

宗教哲学会奨励賞選考委員会 委員長 鶴岡賀雄
委員 芦名定道
垂谷茂弘
平林孝裕
細谷昌志





第1回宗教哲学会奨励賞 
 
伊原木大祐
「レヴィナス、アンリ、反宇宙的二元論」
(『宗教哲学研究』No.30、53-68頁、2013年3月)


選考結果報告

   伊原木氏の上記論文は、フランス現象学の神学的転回と呼ばれる事態についての独自の理解にもとづいて、難解な印象を与える現代フランスの宗教哲学の根本的性格に関して、射程の広い刺激的な見方を提出するものであり、この領域における著者の広い知見と深い理解、独創的な思索力を示している。論述の手際は巧みで論旨も明快であり、選考委員会は同論文を2013年度宗教哲学会奨励賞にふさわしいものと判断する。

  伊原木氏は、「神学的転回」の主導者たちの中で、とくにレヴィナスとアンリに着目する。そして両者の哲学の核心に「反宇宙的二元論」と氏がよぶ思考動向を見て取る。レヴィナスに関しては、初期の術語である「ある(il y a)」に閉じ込められた世界を一種の悪としてとらえ、そこからの脱出と新たな倫理的主体および共同性の成立が目指される理路を、「実詞化」、「繁殖性」、「創造」といった鍵概念の解明によってたどっていく。アンリに関しては、諸現象が外部の世界地平に「超越」として「脱立(ek-stasis)」する様式と、「内在」ないし「生」の直接性において自己顕示するそれとを峻別した主著『顕現の本質』以来の二元論が、晩年のキリスト教三部作において、生の忘却による「この世」への従属からの「再生」を説く「肉の救済」の哲学として語り直される経緯を詳述する。そして両者の哲学はともに、この世の通常のあり方を構成しているものとは質的に異なる高次の知(「グノーシス」)を、ユダヤ・キリスト教の伝統に接続する語彙と思考法に拠って探求するものであり、それがこの世の悪から人間を「救済」するものとして意義づけられていることを明示する。その上で彼らを、フランス現象学という文脈とは別に、20世紀西欧の「宗教的二元論」の思想家たち(氏はS・ペトルマン、G・バタイユ、S・ヴェイユらを挙げる)に近づけようとする。

  こうした氏の見解は、一篇の論文で論じ尽くせるものではなかろうが、現代フランス哲学の宗教哲学としての側面を、新鮮で生産的な展望とともに説得的に提示しえたことの意義は明らかである。伊原木氏の研究の今後の進展が期待される。
 2014年3月22日

宗教哲学会奨励賞選考委員会 委員長 鶴岡賀雄
委員 芦名定道
垂谷茂弘
平林孝裕
細谷昌志





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